ドイツ1人旅 出発〜1日目 フランクフルトに到着
●思い出深きドイツ1人旅行。長編旅行記その1。
金融都市フランクフルトは、高層ビルと公園が融合したナチュラルな都会だ。
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ドイツ1人旅 目次
※この旅行記は長文であるため、複数ページに渡って記載しています。
- 出発〜1日目 フランクフルトに到着
- 2日目 シュトゥットガルト〜ミュンヘン
- 3日目 アリアンツ・アレーナ〜バーデンバーデンでカジノ
- 4日目 カラカラテルメ〜ケルンへ
- 5日目 ケルン大聖堂〜フランクフルト〜帰国
タイトル | 旅行日時 | 国・地域 | 地名 | 旅行先・観光したもの | メンバ ー |
備考 |
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ドイツ1人旅 (長編) 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 |
2009/07/17 〜07/22 |
ドイツ | フランクフルト | レーマー広場、街歩き | 1人旅 | 長編 初1人 海外 カジノ |
シュトゥットガルト | 街歩き | |||||
ミュンヘン | アリアンツ・アレーナ、街歩き | |||||
バーデンバーデン | カジノ、カラカラテルメ | |||||
ケルン | 街歩き、ケルン大聖堂 |
■はじめに
私が最も印象深い旅。それがドイツ1人旅でした。
初めてのヨーロッパ、初めての海外一人旅、そして目的地は、昔からどこか憧れていたドイツ。
これまでは全て英語圏の旅行でしたが、今回のドイツは英語ではなく、ドイツ語が公用語。
初めてのことばかりで緊張の連続でしたが、私にとってこの旅があったからこそ、
この後も1人旅を続ける度胸を持てましたし、旅をすることの楽しさを更に実感できたと思っています。
この旅行記は他の記事よりも特別な意味を込めて、ちょっとエッセイ風な言い回しを混ぜつつ、
かなりの長文に渡った大作となっています。
それだけ今回は、私にとって素晴らしい旅であると同時に、是非とも旅行記として残したい想い出でありました。
サラッと読み流せないほどのボリュームなので、やや面倒かもしれませんが、
どうかこの旅行記にお付き合いいただければと思います。
この旅行記を通して、ドイツという国に興味を持っていただければ、また旅の楽しさを感じていただければ、幸いであります。
※こちらの旅行記では以下のようなドイツ語の略語を用いていることがあります。
DB:ドイチュバーンのこと。ドイツ最大の鉄道会社で、ドイツ全土に交通網を持つ、ドイツで重要な交通手段のひとつ。
hbf:Hauptbahnhof(ハウプトバーンホーフ)。中央駅のこと。
bahnhofは「駅」、Hauptは直訳すると「頭」という意味のようですが、Hauptbahnhofで中央駅といった意味合いになります。
簡単に言えばドイツの駅の中で大型の規模のもので、その土地でのドイツの鉄道の拠点と成り得る駅です。
日本で言うなら新幹線が到着するような大きな駅といった感じです。
ドイツでもhbfには新幹線(ICE)が停まりますからね。
※新幹線はICE(イーツェーエー)、特急はIC(イーツェー)とドイツでは呼ばれます。もちろんドイツ語読み。
■訪問した都市について
今回訪問した都市は都会が多かったですが、ドイツの魅力は都会ではなく田舎にあると言われています。
個人的には観光するなら都会は1、2箇所で十分で、後はちょっとした田舎や観光地をメインにすればよいのではと思いました。
都会は私が訪問した中ではミュンヘン、シュトゥットガルトがおすすめです。(南ドイツですね)
フランクフルトは風俗店が多く、ケルンは物乞いが多く、
ベルリンではネオナチが多い(と聞きます)ので、都会で滞在される方は場所を選びましょう。
今回、北ドイツには行きませんでしたが、ハンブルグなどが人気だそうですよ。
●フランクフルト
ドイツ最大の空港「フランクフルト空港」がある都市ですので、
ドイツに足を踏み入れる場合にまず立ち寄るケースが多いところですね。
またドイツ三大都市の1つでもあり、ドイツ最大の金融都市です。
フランクフルトはドイツでは治安が悪い場所の1つとされています。
その一つの理由が、フランクフルトでは風俗店が多く、店員が店の前で客引きをしているからです。
まあそれだけで治安が悪いというのも言いすぎな気がしますが、多くのガイドブックで「治安が良くない」とは書かれていますね。
まあ決していつでも安全な街には見えませんが…、ヨーロッパの他の都市よりはマシかもしれません。
フランクフルトは空港が近いだけあって、中央駅にもドイツ外からやってくる旅行者が多く集まるようです。
ドイチュバーンセンターには日本人旅行者も見受けられました。
若い夫婦に話しかけましたが、どうも大阪の感覚で気安く話しかけることは、
関東人と思われる彼等にとっては珍しい事であるようで、打って響くような心地よい会話ではありませんでしたがね…。
他に学生と思われる女性3人組もいましたが、まあ男1人で女性3人に話しかけるのもためらわれたのでやめておきました。
またフランクフルトの中心街などでは、日本人の女性が経営するチョコレート店があります。
道を聞くついでに買ってきたチョコレートは良質のもので、随分母が気に入っていました。
ドイツではどこでもビールが人気ですが、フランクフルトでは名物のリンゴ酒が人気のようです。
私もガイドブックに載っていたので欲しくなって買って帰りましたが…、最初どこで売ってるのか分かりませんでした。
後述のフランケンを買ったワイン店で聞いても言葉が聞き取れなくてさまよい、
前述の日本の方が経営するチョコレートショップでようやく場所を聞けました。
デパートの地下のワインコーナーにあるそうです。
しかも2L近い量なのに1.5EURO程度。安すぎる!
家に帰って飲みましたが、まんまアップルジュースにアルコールを入れた感じです。
けど下戸の私でも気に入って毎日晩酌してましたよ(笑) もっと買って来ればよかった。
ちなみにフランクフルトの名物ワインは「フランケン」です。
きちんとしたワイン職人が経営するワイン専門店で、兄の土産に買いました。確か12EUROだったかな。
でも14時〜15時までお昼休みで、この店をたまたま見つけた時は最終日の14:30でした。
30分も地下鉄のベンチに座って時間つぶしをしてました。
●シュトゥットガルト
南ドイツ第二の都市にして、最も治安が良いとされる都市です。
ベンツのお膝元として知られ、中央駅にも誇らしげにベンツのマークが掲げられています。
私が立ち寄ったのは2,3時間ほどでしたが、それでもこの街が住みやすく居心地が良さそうな場所だと、感じるところはありました。
駅から伸びる中央通りは歩行者天国になっており、古い建物を改装したような店舗があったり、
近代的なデパートが立ち並ぶ中、噴水付きの広い公園も広がっています。
また大芸道人もちらほらいて、歩いているだけでも楽しい場所だと感じましたね。
中央駅があるため各都市への交通も便利で、必要なものが買える店舗も揃っており、治安も良い。
街を歩く人もどことなく明るく、楽しそうにしている印象を受けました。
南ドイツに住むなら、ここシュトゥットガルトがベストなのかもしれません。
●ミュンヘン
ドイツの三大都市といえばフランクフルト、ベルリン、ミュンヘンです。
今回ベルリンには行きませんでしたが、この3都市で最も治安も居心地もいい都市ではないかと思っています。
ちなみにミュンヘンは、日本語で「ミュンヘン」と言っても多分通じません。
ミュンヘンの綴りは「München」で「u」にウムラウトが付いており、日本語にはない独特の発音をするため、
日本語まるだしで「ミュンヘン」と言っても伝わらないらしいです。
「ウ」を発音する時のように思いっきり口をすぼめて「イ」に近い「ウ」音を出すと「ü」になります。
日本語を話す人には馴染みのない発音ですが、練習すれば出せる音だそうですよ。
後述のケルンもやはり、日本語で「ケルン」と言っても通じません。
ケルンの綴りは「Köln」で「o」にウムラウトが付いており、これまた日本語にはない独特の発音をするため、
日本語まるだしで「ケルン」と言っても伝わらないらしいです。
ミュンヘンもケルンも、私の場合は筆談しましたから問題はなかったですけどね。
●バーデンバーデン
都会ばかり見ただけではドイツを感じられない、ということで、バーデンバーデンにも立ち寄ってきました。
あんまり知られた場所ではないのかと思いきや、日本人旅行者も2回ほど見かけました。
バーデンバーデンの「バーデン」とは、「入浴」という意味。
ここには公衆浴場「カラカラテルメ」がありました。温水プールのような場所で、混浴のサウナもあります。
そしてこういった保養地には、必ずといって良いほど、カジノの設備もあるのです。
バーデンバーデンのカジノはヨーロッパで1,2を争うほどの豪華カジノだそうで、
カジノ好きの私としては、ドイツに行くのであれば是非寄ってみたい場所でありました。
ヨーロッパの有名なカジノは格式高いものが多く、そういった場所はきちんとしたドレスコードでないと入れません。
私もこのカジノに入るためだけに、わざわざそのための服装を持って行きました。
そのせいでバックパックはかなりかさばりましたが、結果的に持って行くだけの価値があるところでしたね。
私がカジノに入った際の服装は、上は白のスーツ、水色のカッター、黒と赤のチェックのネクタイ、下は黒のジーンズです。
カジノ内は、やはりそれなりの服装の人ばかりでした。
カジノ内は撮影禁止だったので、デジカメで写真を取る事はできませんでした。
この辺はラスベガスを含めてどこも同じですね。
カジノ自体は、クーアハウスと呼ばれる建物の1角にあります。
ここにあるクーアハウスはカジノのみならず、コンサート、真夜中の晩餐、
舞踏会、宴なども開かれるらしく、社交場としても用いられる複合施設といった感じです。
●ケルン
ドイツ第四の都市と言われている都会です。
街のシンボルは何と言っても世界遺産にもなっているケルン大聖堂。
ケルンに立ち寄ったならば、まずここを見なければ来た意味がないというものです。
ケルン大聖堂については「4日目・5日目の旅行記」をご覧頂くとして、続きは大聖堂以外の話を。
ケルン=大聖堂といっても確かに過言ではないのですが、このケルンという都市は
厳かな教会とはまた違った面を持つ街でもあります。
人が他の都市よりどうもとっつきにくく、物乞いも結構見かけるんです。
ただ、ドイツは日本と比べれば信仰深い人が多いようですね。
物乞いの人達も、ケルン大聖堂の外で建物の壁にもたれて座っていることはあっても、中まで入っていく人はいませんでした。
個人的には、ケルンには大聖堂のみを目的で立ち寄るのがよいかと思います。
ケルンの町歩きは大聖堂周辺とライン川だけで十分です。ビール好きな方はケルシュも飲んでください。
ケルンに無理に宿泊する必要はありません。
フランクフルトから日帰りで来れますし、大聖堂は中央駅のすぐそばで、移動時間は1分で済みます。
他の都市からわざわざケルンに立ち寄るのはちょっと面倒かもしれませんが、
ケルン大聖堂はそこまで手間をかけて来る価値が大いにあります。
世界遺産に感動できる人であれば、クリスチャンでなくても心が震えます。
もしケルンで宿泊するのなら、是非夜と朝の大聖堂もご覧いただきたいですね。
最も、あんまり暗い中での独り歩きはしないほうがよいでしょうが、
夜にはライトアップされ、朝には建物の中から朝日に輝くステンドグラスが見れます。
ビール好きな人なら、ビアガーデンなどで名物の地ビール「ケルシュ」をおすすめしますよ。
■ドイツに行くまで
私にとって一度は行って見たい場所であり、そして次に目指すべき場所、それこそがドイツでした。
ヨーロッパにありながら日本人とも感覚が近く、多くの観光者が訪れる親しみのある国。
私の初バックパッカーとしての1人旅、さらに初ヨーロッパとしてはふさわしいこの国を選んだ選択は間違いではありませんでした。
バックパッカーということで基本は貧乏旅行です。
ドイツはユースホステル発祥の地ということもあり、他の国よりも快適なYHを利用できるお国柄ということもあったのですが、
どうも複数人との共同生活に馴染めない私は、YH以外の安宿を抑えて行く事にします。
海外旅行に行く際、メジャーな国であれば現地のホテルを安く抑える事は比較的容易です。
問題は現地に行くための移動手段。つまり航空券の手配です。
場所によっては飛行機の便数が少なかったり、シーズンによってはどこも満席ということもザラです。
ドイツに行く場合ですと複数のルートがあるのですが、最も楽な直行便を探すとなると、どうしても値段が上がります。
日本─ドイツ間の直行便であればJAL、ANA、ルフトハンザのいずれにしても高くなりがちで、
私の場合ですと関西空港からなので、成田よりも便数が少なく航空利用税も高いのです。
ちなみに所要時間は、直行便の関空─フランクフルトでだいたい11時間半くらいです。
そこでまず直行便はあきらめ、最も安いルートを探して見ますと、ドーハ経由のカタール航空のルートがありました。
往復で5.8万円、当時としてはこれは安い部類です。(今はもっと安いのがザラにありますが)
しかしこれには所要時間が長いという大きな問題があり、日本─カタールに11時間、カタール─フランクフルトで8時間、
乗り次ぎの時間が4時間と、片道だけで24時間に迫ろうかという長さです。
往復でしかもエコノミーシートであることを考えると、いくら安くとも費用対効果は薄かったのです。
そして次に目をつけたのがアシアナ航空の韓国経由。
韓国には仁川空港という、空港利用税が安くアジアのハブ空港としても機能している素晴らしい空港があり、
格安で海外に行く際には大変お世話になります。
これならば関西─仁川は1時間20分、仁川─フランクフルトで11時間、乗り継ぎに2時間程度と、十分に妥協範囲です。
しかしここで1つ、ある事に気が付きました。マイレージのアライアンスです。
私がメインに貯めているのはノースウエスト航空のマイレージ(今はデルタ航空と合併しましたが)であり、
同じ「スカイチーム」のアライアンスでないとマイルを貯めることができません。
韓国には2大航空会社があり、アシアナ航空はスターアライアンス、大韓航空(コリアンエアー)はスカイチームなのです。
仁川経由なのであればコリアンエアーもあるのでは?と思い探すと、やっぱりありました。
しかもアシアナ航空と大差ない値段で!
値段も安く抑えた上で、今回の長距離飛行でマイルもガッツリ貯められる!
私は行く前からすでにハイテンション状態でした。
1日目 出発〜フランクフルト中央駅
関西国際空港へ向かうも、思ったより時間がかかり、出発ロビーに到着したのはギリギリだった。
しかし別にダッシュで向かったわけでもなく、早歩きしてゲートにたどり着くと、既に乗客が飛行機に乗り込んでいるところで、
待ち時間0というある意味ベストな時間に着くことができた。
(本当はもっと余裕があるほうがベストだということは、言うまでもないことだがw)
韓国の仁川に向かうその飛行機は小型のもので、乗客も日本人と韓国人が大半を占めていた。
1時間20分ほどのフライトながら機内食も1回出て、ゆったりとした時間を過ごせた。
私が行った時期はちょうどインフルエンザが世界的に流行していた時期であり、
仁川に到着後、機内で配られた「感染の疑いがないか」をチェックする用紙を見せる必要があったのだが、
乗客全員に対して数名のスタッフで行われるため、飛行機から空港に入る通路は非常に混雑していた。
全員をチェックするのに30分はかかっていたと思う。韓国も神経質になっているようだ。
インフルチェックで時間を取られたが、そのおかげで2時間ほどの待ち時間もいつの間にか1時間ちょっととなり、
私は2回目となる仁川空港を散策しつつ、今の内にトイレも済ませて、待っていた。
そしてフランクフルト行きのゲートへ。
フランクフルト行きの飛行機はさすがに大きい。
巨大というわけではないが、これぞ海外行きと言える規模がある。
しかし韓国からドイツ行きは人気がないのか、所々に空席が見受けられた。
私が座ったシートは3人分並んでいたが、私は通路側、窓側にドイツ人と思われる男性がおり、
実質3人分のシートを2人で使っていたような感じだった。
機内食は合計2回。搭乗直後におつまみのようなものが出たが、なぜか私だけスルー。
言えばもってきてくれただろうが、まあ食べても喉が渇くだけだしいいか、と止めておく。
隣にいるドイツ人と思しき方はフライト中に4回もバドワイザーを頼んでいた、さすがドイツ人w
しかも配られたものではなく、わざわざ英語でキャビンアテンダントを呼び寄せて注文しているようだ。
そのあたりの自己主張をはっきりするのも、ドイツ人たるところなんだろう。
飛行機で寝るために前日の睡眠時間を減らしておいたものの…あんまり寝れず。
というのも、日本からこれほど遠く離れた場所に行くのが初めてだったため、子供心にワクワク感があったのだ。
座席の前のスクリーンでは飛行機の進路が表示されるわけだが、
いったいドイツに着くまでにどのようなルートを通るのか、ずっとモニターを見ていた。
それを見ていて思ったのだが、日本から直線距離でドイツに向かった場合、どうも北朝鮮の上空を通ったほうが
近いような気がした、しかしながらさすがにかの国の上空を通るわけにはいかないため、上空の境界ラインぎりぎりを飛ぶだけのようだ。
具体的なルートとしては、日本→中国→モンゴル→ひたすらロシアの南→ベラルーシ→ポーランド→ドイツであった。
なるほど、ヨーロッパへの便はロシア南部の上空を飛んでいるわけか。
さて、そんな感じで時間は過ぎ、いよいよフランクフルト空港に着陸。
上空から見える空港、事前に調べていた通り、やはりフランクフルト空港の周辺は木々に囲まれたエリアのようだ。
確かにこれでは、空港の拡張はままらない。
地上がだんだんと近くなってくる…とそこで気が付いたのだが、なんと雨が降っている。
しまった、雨対策なんて全然してない。 傘なんて荷物になるから持ってきてないし。
というわけで、ドイツ到着後さっそく雨に歓迎される私であった。
さて降り立ったフランクフルト空港。ヨーロッパの3大空港の1つだけあり、その大きさは半端ではない。
ターミナルも2つあるので、関空の3倍の広さはあるだろうか。
コリアンエアーはターミナル2に到着なので、まずはターミナル1へ移動しなくては。
とりあえず預けたバックパックを受け取り、到着ロビーに着くと、なにやらそこそこの人だかりが我々乗客を迎えてくれた。
多分「歓迎」と書かれている垂れ幕を手すりに下げて出迎える複数人の人や、
久々の外国の友人と挨拶を交わす学生と思しき若い男性。
まぁこんな一人身の男を迎えてくれる友人に心当たりが全くない私は、
少し寂しいような、うらやましいような気持ちになりつつ、ロビーを抜けたのだった。
到着ロビーには、世界各地に支社を持つ大手レンタカー会社の窓口がいくつもあった。
さすが車大国ドイツの玄関口だけあって抜かりはない。
私は用がないので、とりあえず帰り用のコリアンエアーの窓口の場所を下見確認しておき、ターミナル1を目指す事に。
ガイドブックを参考に探して歩いてみると、どうやらシャトルバスがあるようだ。
とりあえずそれに乗り込むも…うーむ、ひょっとしてタダ乗りしちゃまずかったのか?
と乗り込んで見て不安に。
私は乗り物の中でバスが最も苦手で、狭い空間に大勢の人、
そして何か問題が起こったらこの空間内で自分一人で解決しなければならないという孤独感からか、気が気ではない。
しかも初めて訪れる国でありヨーロッパ。
ドイツとはいえ、外人が珍しいのかじっとこちらを見てくる人もいる。
乗っている間は常にビクビクしていた。
なんとか視線を逸らし、気分を落ち着けようと外を見てみる。
なるほど、外から見てもやっぱりこの空港はデカイ。便がいいかどうかは分からないが、
これだけの規模があれば確かに沢山の飛行機が離着陸できそうだ。
そんな事を考えていると…なぜか空港から離れていくバス。
おいおい、どこに行くんだ。このバスはターミナル1に行くはずだろ。
俺をどこに連れて行くんだ?!
だんだん不安が募り、必死に自分に、このバスで間違いないと言い聞かせて気持ちを落ち着ける私であった。
しばらく乗っていると気がついた、どうも空港が広すぎる反面、周囲全体を開発できないため、
一端空港から離れて遠回りしないと、反対側にたどり着けないようになっているようだ。
ようやくターミナル1のバス停留所に到着し、ホッと一安心。
料金はタダか。まぁシャトルバスだからそうだよな。
(後で気が付きましたが、どうもどんなバスでも皆タダ乗りしてるみたいです。
切符も打刻機もあるのに、皆それをしないのはなんでだろう…。)
雨が降っていたので、濡れないように近くの建物へ。
地下へのエスカレーターがあったのでそのまま進むも、なんかよく分からない場所に出たので結局また上に。
仕方なく雨に濡れながら、ターミナル1の地上口から入る事に。
ターミナル1はまさにメインフロアという感じで、大きな案内板には絶え間なくフライト情報が回転しており、
ターミナル2になかった航空会社の受付窓口が並んでいる。
エリア自体は広いはずなのに、なぜか建物の出入り口はちょっと狭く感じるが、これはこういうものなんだろうか。
さて空港散策も体力を使う上に、着いた時点でもう夕方なのでゆっくりもしていられない。
フランクフルト中央駅に向かうことにした。ガイドブックによるとSバーン8か9で数駅とある。
とりあえずSと書いてある看板を探し、地下に降りて行く事に…あれ、Sバーンって地下鉄だっけ?
行き方が分からず、それらしきところを何往復かしてまた戻る挙動不審な日本人と化す私。
人に聞こうにも、先ほどのバスと今回の混乱で、まともな質問ができそうになかったので断念。
しかも入り口がちょっと暗くて、人も多くてなんだか危険な感じがしたので、少し人ゴミを避けた場所で1人考えていた。
ガイドブックをもう1回見て、よく考えて見る。
この場所はまだ通ってない。さらに地下に繋がってるけど、果たしてここでいいのか?
で地下の方にエスカレーターで降りて行くと…どうも当たりらしく、電車のホームにたどり着いた。
そこで初めて目にするドイツの駅。まずアナウンスがない。
どの電車がいつ来るのかは、駅の天井からぶらさがってる電子案内板を見て判断するようだ。(この辺は日本と同じ)
係員に聞いてもよいのだろうが、看板にもあるし何より地下鉄みたいな場所に沢山の人だかりなので、そんな気力も失せてくる。
待つこと数分。案内板通り、8番の電車がホームに入ってきた。
そして電車到着と同時に、中から手でドアを開けて出て行く人、その後にすかさず乗り込む人。
さすがドイツでは中国と違ってちゃんと降りる人を優先させるよな、なんて考えながら私も中に入る。
なるほど、これが噂に聞く手動ドアか。でも閉まるのは自動。なんでやねん。
とか1人でツッコんでいる内に電車が発進。暗いトンネルを抜けて、ようやく青空が広がってきた。
周囲にまず見えるは緑の木々、確かにフランクフルト空港は森に囲まれた場所にあるらしい。
時間はもう17時を過ぎているというのにまだ明るい。
ヨーロッパは日本より北にあるし、今は夏だからこれが普通なんだろう。
フランクフルトの湿度は日本より低めだが、ラスベガスほどの乾燥地帯というわけではなかった。
ドイツ滞在中に雨がよく降っていたので、その影響もあるのだと思う。
気温は、暑がりな私はTシャツ1枚でも汗が出ていた。もちろん日本よりは遥かに快適ではあるが。
ただバーデン・バーデンのみ、温泉地ということもあってか、他の都市よりも湿度は高かったが…。
いよいよフランクフルト中央駅に到着。
到着ホームはどうやら地下のようなので、エスカレーターに乗って地上を目指す。
ドイツでもエスカレーターは片側に人が立ち、もう片側を急いでいる人のために空けているようである。
黙って立っているというのも落ち着かないので、私は歩きながら上を目指すことにした。
途中、中年の女性が少し真ん中よりに立っていて邪魔になっていたので、私はここで「Entschuldigung.」と軽く声をかけた。
女性に伝わったどうかはわからないが、側にいたその女性の夫と見られる男性が、
女性の肩を軽く押して彼女に「Entschuldigung.」と呟いた。
私はとっさに「Entschuldigung.」ともう一度言い、そのまま何事もないように上を目指す。
何度も練習していたドイツ語が通じたのを感じ、私は心のどこかでガッツボーズをとり、
これから向かう先への希望に軽く胸を躍らせた。
さすがに主要都市だけあって駅がでかい。
ざっと見回す。駅に改札口がないため非常にオープン。
空港駅のように、駅自体が地下にあると暗くて狭いような印象を受けるが、
ここは天井がとても高くドーム式で、ホームのすぐ近くには様々な店が並んでいる。
しかし治安が悪いとも聞いていたので、広さの感激をしまい込み、周りの人に気を付けながら外へ。
散策は後にしよう。
1日目 ホテルへ
まずホテルを目指す。地図は何度もチェックしたので頭の中にある。
中央駅の外に出て直進、なるほど、地図のあのマークは路面電車だったのか。
路面電車の線路を、他の通行人のタイミングに合わせて歩きだす。
変なタイミングだとまたじろじろ見られそうだしな…。
そのまま直進しカイザー通りへ。ガイドブックによると最も危険な地帯はここだと書いてある。
避ける選択肢もあったのだが、一番分かりやすい道であることと、何よりさっさとホテルに着きたかったので、危険を承知で最短ルートを目指す。
通って見て分かる。なるほど、風俗店はあまり並んでいないが、客引きが多い。
普段からこの道を通る人なら慣れているのだろうが、いきなりフランクフルトに訪れた外国人なら少々抵抗を覚える。
しかし私も考えなくこの道を通っているわけではない。おそらくこの道を通りなれているであろう数人のドイツ人が
周りにいることを確認し、彼らと一定の距離を保って後ろからついて行った。
こうすれば前にいる人の反応でやり過ごし方が分かるし、何より客引きが私1人に注意が向くこともあるまい。
それにカイザー通りを進む時間はほんの1分ほどだ。
カイザー通りを直進後、2つめの角を左へ。
曲がり角にあるシャッターの下りた店の下に、数名のホームレスが横になっているようだった。
ドイツでもやはり格差はあるのだなと思いつつホテルを探す。
んー、この通りも車が沢山駐車してあって、いかにも車の陰からピストルを持った男達が出そうな場所である。
通りがかる人も、どこか人相の悪そうな、油断すると襲ってきそうな気さえしてきた。私もよほど神経質になっているようだ。
歩くこと数十歩。うーむ。どうやらこの看板、今日の宿泊ホテルで間違いなさそうだ。Hotel Elbe(エルベ)と書いてある。
入り口はごく普通の開き戸。ガラスから中の様子が見えるが、どうも中で誰かがたむろしてるんじゃないかと、
到着したばかりでまだ馴染みきれず、事前情報を信じすぎて色眼鏡を外すことができない。
しかし建物の外で待機している方がむしろ危険だろう。私は意を決して中に入ることにした。
中は少々狭いロビーのようである。まあ安宿だし標準的なホテルというわけではないから、こんなものだろう。
周りを見回す。誰もいない。しかしそれは一瞬のことで、左にあった少し高めの机が死角となっていたようだ、
座って事務作業をしていたと思われる老人が立ち上がり、その姿を見せた。
とりあえず話しかけてみる、本来この場合は「Guten Tag」と言うべきなのだろうが、
つい「ハ〜ィ」とEnglishが出てしまった。うーむ、まだ私は気が動転しているようだ。
宿のご主人は高齢の方で、日本で言う前期高齢者といったところか。60歳を少し過ぎたような感じの穏やかな人だった。
彼も「ハ〜ィ」と返してくれた。私は日本で予約した時に印刷しておいた、予約証明書を取り出し、彼に渡す。
彼は「ヤー」といいながら書類をチェック。どうやら問題なく予約は取れていたようだ。
机の上に置かれていた宿泊者予約確認書(名前とか住所とか書くやつ)を示し、「これを書いてくれ」という。
しかし当然ながらそこに書かれているのはドイツ語であった。私はすぐさまドイツ語ガイドを取り出す。
「Oh! Oh! ノープロブレム。ノープロブレム」。宿の主人はそう言うと、
丁寧に1つずつ、ドイツ語で書かれている項目を英語で解説してくれた。
ここには名前を書いて、ここには住所を書くんだ。
英語なのでなんとなくは分かる、でも主人の発する全ての英単語を理解できたわけではなかった。
とりあえず分かるところから埋めていく。んー、これは何だ、宿泊日時、今日か。
そして名前を書く欄にたどり着き、ふと疑問に思った事を主人に尋ねた。
「この欄は日本の漢字を使ってもいいのかい? アルファベットがいい?」
「ア〜、You know.You know.You know.」主人は苦笑い。言葉に詰まったようだ。
私は笑いながら、とりあえず他の欄を埋めることにした。
主人もこういうケースは経験がないんだろう。無理もない。
そもそも書類を漢字で書く習慣があるのは、中国人か日本人くらい。
韓国人に至っては漢字を使うのは自分の名前くらいで、住所他はハングル文字を使うだろう。
韓中の人達が「漢字で書こうか?」尋ねる行為をわざわざ行うかもわからない、
だとするとこんな事を尋ねるのは日本人くらいだろうか?それとも私だけか?
そうこうしている内に欄が埋まっていく。一通り書いてから主人は、
用紙の一番右下の方に「ここに例のサインを書いてくれ」という。
私が「例のサイン?」と尋ねると、主人は言葉に詰まりながらペンで線を縦横に何本も書いていく。
「Oh.OK!」なるほど。ジェスチャーで漢字を示してくれていたようだ。
確かに漢字に馴染みのない人達からすれば、とりあえず線を縦横に書く程度の文字としか認識できないだろう。
我々日本人がアラビア語文字を見るような感じなのではなかろうか。
全ての欄を埋め、漢字で最後のサインをすると主人は「OK! OK!」と言いながら鍵を渡してくれた。
この鍵であけてから、この鍵についている金属棒を壁に差すんだ。主人はジェスチャーで示してくれた。
主人から鍵を受け取った後、私はあらかじめメモしておいたものを見せた。
そこにはチェックアウトは何時か? 朝食は何時から何時の間、どこで食べられるのか?
という質問内容が、ドイツ語で書いてある。
主人はそれを、小声で声を出しながら読んで行き、それらに全て答えてくれた。
ロビーのすぐ横にあるエレベーターに案内され、そこから見える部屋を示して、
ここで朝食を取れるんだ、と主人は説明してくれた。
エレベーターが開き、私が入ったことを確認して、
主人は5階のボタンを押してくれた 「ダンケシェーン!」と私は言った。
ゆったりとした動きの主人は微笑んで手を降り、またロビーに戻っていった。
5階に着くとそこは狭いエリアだったが、壁には客室の扉が6つ7つ。
床にはじゅうたんが敷いてあり、どこか情緒あるランプが壁から生えていた。
そのランプは人が近づくと点灯し、人がいなくなると消灯するようだ、なるほどこれが合理的なドイツ仕様か。
私の部屋はエレベーターのすぐ隣の部屋だった。鍵をドアに差し込む。ひねってみるが開かない。
んーむ、これもドイツ仕様か?私は出発前に調べていた情報を思い出し、記憶の通りに右に二回ぐるぐると鍵を回してみた。
開いた、やはりどうやらドイツの鍵は多くがこういう仕様のようだ。
トビラを大きく開け、部屋の中に入ってみる。
ドアのすぐ横にキーの金属棒を差し込む。明かりがついた。
まず、ドア正面にあるベッドが目についた。安宿ではあるが清潔そうだ。
くるりと右を向く。すると左の壁にドアが見え、正面には少しだけ開けられた窓から、ビルの一角がちらりと覗いていた。
その窓の右手前には、小さめの机に小型のTVが一台。
早速、背負っていた荷物を降ろし、部屋の中にある唯一の小部屋のトビラを開けてみる。
中には右にトイレ、左にはシャワーを立って浴びるだけのスペースがあった。
まずトイレに近づいて調べる…が、ボタンが見当たらない。
トイレ事情は国によって異なれど、用を足したならばそれを処理するための装置が必要であろう。
日本のトイレ技術は世界最先端らしいがここは海外だ。
まさか全自動ではあるまいし、そもそもこの簡素な造りの便器には、
どこをどう見ても、自動化されているような便利な技術が施されているとは思えない。
もう一度、今度は少し距離を置いたところから便器を眺める。
しかし、簡素なはずなんだが、なんだかゴツイ便器だな。
そりゃ日本人の平均体系は欧米のそれよりは遥かに一回りも二回りも小さく、しかもドイツ人の平均体系は世界的に見て
きっと大きいはずだから、むしろ日本にあるサイズの便器が普通に置いてあったら、この国に住む人は困るだろう。
もしドイツ人が日本に来たならば、到底満ち足り得ないサイズに苦心しながら用を足す姿が目に浮かぶ。
…いや浮かばんでいい。何を考えているんだ俺は。
まぁゴツイとは言っても巨大というわけではなく、普通と言えば普通のサイズなのかもしれない。
ドイツに着いたばかりでまだ数時間の身の上であり、しかもこれから初めて異国の地を冒険しようとしているのだから、
私の目にはどこか過剰にフィルターがかかっているということなのだろうか。
などという事を考えながら便器を眺めること10秒…。
む、これは何だ? タンクの上になにやら四角い黒い線が引かれてある。
フタになっていて開ければ中が覗けるということか?
ためしに手を触れてみる。やはりここだけ硬くない。さらに指を押し込んでみる。
「カコッ」
なにやらそんなレトロな音がした後、便器から水が流れ出る音が聞こえてきた。
…なるほど、これがボタンか。
とまぁ数十秒の出来事ではあるが、まさかトイレの使用方法を模索するのに、これほどの時間を消費するなどと
思っても見なかった私は、何か無性に無駄な時を過ごしてしまったかのようであった。
「いやいや、重要なことだ」
口から出た独り言を合図に、この部屋の探索を仕切り直す事にする。
ベッドに戻った私は、とりあえず横になってみることにした。
ふむ、ちゃんとしたベッドだ。
別に匂うわけでも虫がいるわけでもなく、しかし豪華な香水が振られているわけでもない、至って普通の寝床である。
だが音が軋むわけでもなく、私の安眠を妨げるような要素はこのベッドに見られない。
ここが格安ホテルであることを考えれば十分、いやむしろ贅沢ともいえるだろう。
横になったまま部屋を見渡す。
ベッドはバスルームの部屋の窪みを利用して置かれているため、ベッドからは入り口のドアと、隣にある電話が置かれた机、
ドアのすぐ横においてある小さな棚机くらいしか目に止まらない。
そのまま左に身体を向けた私は、すぐに顔を起こした。
ベッドの上の壁に縦長の額縁が置かれてあり、そこにはなにやら花瓶の花の絵が描かれてあった。
…なるほど。ドイツは家を飾る事に重きを置くと聞いたことがあったが、こんな安宿であってもそれは当然ということなのか。
ベッドから腰を上げて部屋を見渡す。どうやらこの部屋にかかってある額縁はこれ1つのようだが、
なかなかどうして、決して広いとはいえないこの空間にいながら、
どこかここらあたりが映えるような気になるから不思議なものだ。
西ヨーロッパは芸術の盛んな地方なのであろうが、ドイツに至ってもその粋な感性は失われてはいないということか。
机に置かれていた扇風機に手を伸ばす。ふむ、まさかドイツで扇風機を目にすることになるとは。
しかし色が全部真っ黒であるため、きっとプラスチック製であろうこの機械が、
どこか重厚に見える…かもしれないのだが、なんだか風情のなさに味気なくも感じてしまった。
このあたりの彩色感性は日本も負けてはいまい。
日本とは違うプラグに差し込んで起動してみた。うむ、普通に涼しい。
寒い地域にあるドイツにあって、どんな安宿でも暖房設備はきっちり備えられていると
聞いていたが、やはり夏にはドイツ人もしっかり暑さを感じるということのようで、この配慮が素直に嬉しかった。
TVをつけてみた。液晶でもなんでもない、小さなCRTタイプのものだ。
早速流れてくる映像を見る。
当然、TVの中にいる人が話すのは全てドイツ語であり、字幕もない。
とりあえず天気予報でもやっていないかとザッピングしてみるものの、
ニュースなのか、ドキュメンタリーなのかよく分からない番組が多く、今の私では探せそうにない、諦めることにした。
ドイツに到着した時には雨で歓迎されたし、今もいつ雨が降るかわからない状況であるから、
しばらく待っていれば空が晴れるかな、というような期待は持てそうにない。
部屋の見回りを終える事にした私は、バッグを開けて荷物を整理し、再びベッドに戻り、改めて人心地ついた。
時計を見る。19:30。
時差の調整のため寝ていない時間が長い。
普段寝付きの悪い私であっても、ここで目を閉じればすぐに睡魔に身を委ねられるだろうが、
まだ眠るには早すぎる時間である。それに腹ごしらえもある。
私がここに来てしたことといえば、空港を見て、電車に乗って、
フランクフルト中央駅に立ち、やや迷いながらもホテルにたどり着いて部屋に入っただけである。
初日の出来事としてはまだ物足りない。眠る前に、もう一散策するべきであろう。
このドイツ三大都市の1つフランクフルトを。
思い立った私は、整理しておいた小型バッグを手に持ち、部屋を出た。
フロントでは先ほどの初老の主人が笑ってこちらを見た、
私は彼に鍵を預け、再びあの未知なる都市に挑まんと、ホテルのドアを開いた。
1日目 街歩き〜マクドナルドでの失敗
時間も時間だから、それほど長々と歩き回る事はできそうにない。まず中央駅に向かおう。
来た時の道を引き返すのではなく、1つ隣の路地へ、私は歩きだした。
北東のストリート(Tauns str.と思われる)に差し掛かる。
そこは2車線の道路に、路上駐車ができそうなスペースのある道路が広がっていた。
そのまま南西へ、中央駅を目指して歩くのだが…。
…なるほど、あった。
その通りにはいくつかの店がネオンを焚いているようであったが、
どうやらその中には、フランクフルトの特徴でもある風俗店らしきものも少なくないようだ。
そしてそういう店には他の店よりどこか怪しげで、かつ店の前にはきっちりと客引きがキョロキョロしているのである。
先ほど部屋で人心地ついたためか(いや宿の主人が親切だったからだろう)、変に恐怖心はなくなっていた。
できるかぎり不自然に見えないよう、この地に住む人であるかのように普通に歩き、まっすぐ中央駅を目指した。
当然、客引きの兄ちゃん(年齢的にも兄ちゃんと呼ぶに相応しかろう)に軽く声をかけられたものの、ここはドイツである。
日本にも見られるような簡単な呼びかけであり、こちらが苦笑しつつ「Nein,Danke.」と軽く声を掛け返せば、
それほどしつこく呼びかけられることもなく、向こうも「そうか」といった程度で引き下がってくれる。
(インドやエジプトであればもっと客引きがしつこいらしい)
うーむ、ちょっとはドイツ慣れ(というかフランクフルト慣れ)してきたか?
若干ではあるが、心にも余裕がでてきたようである。
さて中央駅が見えてきたものの、道路と路面電車が入り組んでいて、
向こうに行くにはちょっと億劫さを覚えるな、と歩きながら考えていたが、
前方に見えてきた地下へ続く階段を見つけた私は、足を止める事なくそのまま降りていくことにした。
なるほど、地下はこうなっているのか。
そこは広々とした空間になっており、やや規模のある店が何店舗も連なっている。
人通りは少ないものの、明かりもちゃんとあるから、危険な感じもしない。
下を見ても床は特に汚いわけではなく、地下を歩く分には不安はなさそうだ。
まず飲料水を確保しなくては。
私はコンビニと思われる店に入り、ドリンクコーナーへと向かった。
ドイツのミネラルウォーターは炭酸入りが主流だから、慎重にメーカーを確かめて買わなくては。
事前の情報通り、evianと書かれたペットボトルを持ってレジへ。
清算を済ますが、店員は無言である。まぁこれは別段珍しいことではないだろう。
私も部屋で休んで心にゆとりがあったので、商品を受け取りながら「Danke」と軽く言った。
すると一拍置いて「schön(シェーン)」と聞きとれた、店員がそう言ったようだ。
なるほど、そういう言い回しもあるのか。1つ勉強になった。
※どういたしまして、の意味で、丁寧に言えば「bitte schön」だが、bitteを省略した形のようである。
愛想のない店員が軽く言う程度の言葉ということなのだろうか。
店を出てさっそくペットボトルの口をひねる。うむ、音が鳴らない。
口に水を含む。よかった、やはり無炭酸なようだ。
エスカレーターで上を目指すと、そこには本日二度目の壮大感を感じられる光景があった。
フランクフルト中央駅のドーム天井が目に飛び込んできたのである。
さて歩くとしよう。
フランクフルトの駅の構内は天井が高く、しかも改札口などないので、広々と感じる。
立ち並ぶ店も質素ながら華やかで、人通りもそこそこ、この時間ながら賑わいがある。
私は軽く店を見て周り、もしあるなら入ろうと決めていた1つの店に足を踏み入れた。
マクドナルドである。
さすがは世界的チェーン店、国が違ってもマクドである。
だが時間が時間なためか、なかなか混雑している。
並ぶ前にレジの近くで様子を見る。
ちゃんと並んでないと横入りされそうだな。
せめて注文はある程度決めておかないと、レジで店員を目の前にメニューのオーダーを
長々と考える時間もゆとりも与えてはもらえまい。
そしてここで食べるのではなく、持ち帰りである。そのことを告げなければならない。
私は出発前に購入しておいたドイツ語の本を手にとり、何度も言うべきフレーズを頭の中でイメージしていた。
そうしていよいよレジに向かう。店員がこちらに向き合った。
この店員若くないな、30代ぐらいじゃないか?
でも周りの店員もあんまり若く見えないし…て、今はそんなことどうでもいい。
私は開口一番「Zum mitnehmen,bitte.(ツム ミット ネーメン ビッテ)」!
しかし店員は何かよく分からない、というような顔。
伝わらなかったのか、ならば。と私は手に持った本を見せながら、
もう一度言って見せた。
すると店員は軽く分かったような仕草を見せてはいるものの、やはりどこか意に介さないというような具合であった。
だがしかし本も見せたし、伝わったことは確かであろう。
私は注文を続けた。えーと、ポメス(フライドポテトのこと)1つに、ベーコンマックバーガーも1つ、と…。以上で。
注文を終えお金を支払う。
私はちゃんと伝わったのか?という不安に襲われながら、商品が用意されるのを待っていた。
待つこと数十秒。今から思えばドイツに来てこれほど緊張した場面もあるまい。
なぜか、私が頼んでいないはずのビッグマックがトレイに乗っていたのである、それも2つも(笑)
何?!どうなってる?!
呆然と立ち尽くす私。その間にも、私が自分の意思で注文したベーコンマックバーガーとポメスも1つずつトレイに乗せられた。
しまった…!
どうやら私が呟いた「Zum Mitnehmen,bitte.(ツム ミット ネーメン ビッテ)」というフレーズが、
発音が悪かったのかタイミングが悪かったのか、
向こうの店員には「ビッグマック」と捉えられてしまったようなのである。
しかも2回も続けていったもんだから、どうやら「ビッグマック2つ」と店員は受け取ったようだ。
本来ならここで「俺はこんなの注文してないぜ!」とはっきり自己主張すべきなのであろう。
日本では主張を控える事が美徳とされるという、世界的に見ても稀な感覚がある国ではあるが、海外ではそれは通用しない。
言うべきは言うことが望ましいのである。
…ということは十分に意識はしているものの、こちらが言い方を間違ったと思われる上、
すでに勘定はすませたし、何より混雑しているので後ろの人を待たせてもいるし、
私自身も動揺していて、そんな主張を日本語の通じないこの国で、
片言のドイツ語で弁解する勇気と度胸と心の余裕など、その時の私にはとてもなかったのである。
作業を終えた店員が私にトレイを差し出してきた。
その上には私自身が注文したポメス1つ、ベーコンバーガー1つ、
そして私が勇気を振り絞り必死に訴えた末の悲しき結果であるビッグマックが2つ。
結局私は店員に何か言うこともなく、そのままトレイを持って後に引き下がったのである。
その数秒後、またもや気が付いてしまった…。
「お持ち帰りでお願いしますって言ったじゃねーか!」
頭の中にツッコミが入った、しかもさっきのことがあって心に余裕がないままである。
とりあえず落ち着こうと周りを見回す、がどうやら空いている席は近くになく、
レジに近い位置にある立ち食いできると思われる机の上にトレイを乗せ、
ポテトを2つ3つ口に運んだ。うーむ、油っこい。
そして私はポケットに入れておいた、私の家の近くにあるスーパーの透明な袋を取り出すと、おもむろに注文した品々を中に入れていく。
こんな滑稽な行為をしている自分自身の情けなさと、それを周りの人が見て変な顔をしないかと、
不安でたまらない時間が流れている。私の背中は既に冷や汗がダラダラである。
なんとか商品を入れることには成功した…が、トレイはどうすればよいのだろうか?
3たび訪れたこの危機に、もはや私の頭はオーバーヒート寸前である。
とにかく早くこの場を離れたいのに、右手には私の手に余るトレイが1つ。
トレイ置き場も見当たらない。
ひょっとしてレジに持って行くものなのか?
それをしている客はいなさそうだし、観察しているゆとりもない。
結局どうすればいいのかわからず、置いても邪魔にはならないと思われる位置に、
(きっと不自然極まりなかったであろうが)さりげなくトレイを置いておき、店の出口を目指した。
ここはきっとトレイ置き場であって、今はトレイが1つも置かれていないだけなのだ
などという自己暗示をかけ、わずかばかりの罪悪感をごまかしながら、そそくさとマクドナルドを後にした私であった。
店を後にしたら、後は別に気にすることもないはずであろうに、
私の精神は予想外の三連続攻撃にすっかりまいってしまい、
一刻も早く宿に帰りつきたい思いでいっぱいであった。
何より近所のスーパーのロゴ入りの袋、しかも透明で中身が見えそうな中には
バーガーとポテトがたんまりと入っており、そんな怪しげなものをぶら下げ、
さらに雨雲広がる中で、寒さで冷めそうなポテトをつまみながら歩いている
滑稽な日本人は私だけなのではないかと、不安でたまらなかったのである。
何かに背中を押されるように一目散にホテルを目指す私。
タイミングの悪いことに、雨がポツポツ降っているようだ。
来た道を引き返し、地下を通って地上へ抜け。
またホテルへと歩き出した。
ホテルへと帰ると、先ほどの主人がキーを返してくれた。
よかった、余計な問答がなくて助かった。
このときの私はどれだけいっぱいいっぱいな顔をしていただろうかw
すぐにエレベーターに乗り込み、ようやっと部屋にたどり着いた私はベッドに倒れこんだ。
さっそく、やってしまった…。
まさにこの言葉につきよう。
疲労はあったとはいえ、意気揚々と出かけた上での失態である。
そりゃはじめての土地、馴染みのない言葉、慣れない一人旅と、不安な要素が一杯だし、
掻き捨てるであろう旅の恥などこれから幾つもでてくるであろうが、このタイミングで来るとは思わなかったのである。
なるほど、タイミングが読めないからこそ恥なのであり、意図しなかったからこそ、掻き捨ててよいものなのだろう。
とそんな事を思いつつ、周りの目からも解放され、ひとまずは心を落ち着けることはできたのだが…。
しっかし、どうするかな、これ…。
そう。何せ余計なものを買ってしまったのである(笑)
とりあえず袋から取り出してみる。
ベーコンバーガー1つに、ポメス1つに、ビッグマックが2つ。
フタを空けて並べてみるとデカイ。日本のものとそれほど大きな差はないようだが、やはりビッグマック2つの威圧感がヤバイ(笑)
ポテトもサイズ指定はなかったが、これは日本のLサイズには相当するだろう。
さて私の腹に問いかけてみる。
ポテトLサイズ1つにバーガー3つである。
これらを今、全て食べることは可能か?
もちろん答えはNO。
であれば、どれかを犠牲にしなければならないのである。
残して明日の朝食べる、ということも考えられるが、マクドナルドからホテルに移動するだけで、
ポテトもバーガーもこれだけ冷えてしまっている。
しかも雨が止めば乾燥するこんな気候のなか、果たして残されたバーガー達は明日の朝まで、
見た目も風味もそのままで、おとなしく待っていてくれるだろうか?
そしてもし明日食べたとしても、その日一日を健康で過ごせる保障などどこにもありはしないし、
きっと大丈夫だろうなんて甘い期待で食べた今日の一瞬の過ちで、
これから過ごせるであろうドイツでの冒険心溢れる滞在を棒に振りたくはない。
となると、何かを捨てるしかないか…。
食べ物を捨てるという行為を好まない私ではあったが、だからといってここに放置するわけにもいかない。
今からバーガーを持ってロビーに下りて、暖かく迎えてくれる初老の宿主人に、
「余ったんだけど、いらないかい?」
なんて笑顔で言いながら差し出そうかとも思ったが、
それはきっと夕食が用意されていると思われる主人への嫌がらせに他ならないだろう。
とりあえず、食べよう。
そう思い、ポテトを口にする私。
しかしドイツのマクドのポテトは油っこい。
ジャガイモ大国だろうから美味しいとは思うんだが、なんていうかポテトというより油を食べてる気がする。
油が強くてジャガイモの旨みを感じられない。
だがマクドといえばポテト、というくらいのポテト大好きな私にとって、
いかに異国の地といえど、ポテトを処分するという選択ができるはずもなく、
一緒に頼んでいたベーコンバーガーを頬張りながら、いつにも増してボリュームを感じるポテトを平らげたのであった。
続いてベーコンバーガーも完食。これはなかなかいけたな。
そして残るはビッグマックの双璧。
うーむ。ポテトとベーコンマックのボリュームに加え、ポテトの強い油のせいで胃にもかなり負担がかかっている。
この2つは食べようと思えば食べられるであろうが、それをしようものなら、
ジャンクフード特有の添加物(特に油分)によって、明日以降の食事が負担になることは、最早目に見えている。
だが折角買ったのだから…と、とりあえずビッグマックを1かじりしてみる。
うーむ。普通だ。
そういや世界の物価を考察する上でビッグマックの値段を1つの指標にする
「ビッグマック指数」なるものもあったなぁ…などと思いながら、さてまあ、
私はゆっくりとビッグマックのフタを閉め、2つ、積み上げるようにゴミ箱の中に置いたのであった。
しかしドイツのマックのポテトは頼まない方が無難であったわ…。
ベーコンバーガーは普通の味か?
いや、ハンバーグが美味しいから、日本のものよりいけるのではないか。
ビッグマックは1かじりだけだったけど、日本のものと大差ない気がした。
バーガーも全体的に油っこい気がするけど、食べ過ぎなければOKかな。
まあとりあえずは腹ごしらえもできたことだから、あとは寝るだけだ。
私はシャワールームに向かった。
これは立ちながらシャワーを浴びるだけのもので、当然、湯船があるわけではない。
そもそも欧米ではバスタブよりはシャワーがメインだろうし、私も別段それに不自由を感じるタイプではない。
ただ座る場所がなく、立ったままでシャワーを浴びて身体を洗わなければならないのは、
慣れない分少々不憫に感じたが、安宿で快適なベッドが用意されているのなら、このくらいは妥協しようではないか。
シャワーから出た私は身体を拭き、荷物を整理しながら窓を見た。
うーむ、もう21:30だというのに明るい。
ドイツを含むヨーロッパ一帯は日本よりかなり北に位置しているから、
夏場だとこの時間でもまだ暗くはならないのか。面白いな地球って。
そんなことを考えながら、ようやくベッドで目を閉じることができた。
初日だが、まぁまぁ順調な滑り出しではないかな。
今日の早速やってしまった失敗をあまり思い出さないようにしながら、
明日からのさらなる旅路に期待を込めつつ、私は眠りに落ちるのだった。
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